保育で給食を提供する場合に、一番気をつけなければいけないことは、食物アレルギーを持った子供への対応です。
命に関わる重大な事故を引き起こす可能性がある、ということを保育者一人一人がしっかりと認識し、人的エラーをなくす努力を積み重ねていかなければいけません。
しかし、間違えないようにしようという意識を持つだけでは、必ずミスは起こります。
簡単にミスは起こるのだ、という前提条件を持つことが大切です。
そしてミスをなくすためには、日頃から食物アレルギー対応について職員が集まって考える機会を持ち、ミスをしないようにする仕組みやマニュアルを各園で作っていく必要があります。
厚生労働省が作成した『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』に基づき、様々な園で行われている給食の食物アレルギー対応を紹介し、自園でのマニュアル作りの参考にして頂ければ幸いです。
食物アレルギーとは何か
食物アレルギーとは、摂取した食べ物が原因で起こる、体の不調のことです。
蕁麻疹や湿疹などの皮膚症状が有名ですが、下痢などの消化器症状、咳やゼーゼーと言った呼吸器症状が出ることもあります。
また、アナフィラキシーという、呼吸困難などの全身のショック症状が起こることもあり、最悪の場合、死に至ることもあります。
ここでは、保育者が必要とする最低限の知識に絞って紹介します。
食物アレルギーとは
本来、人間は食べ物を異物として認識しない働きによって、食べ物から栄養を吸収することができます。
しかし、ウィルスなどの異物から体を守るための「免疫」という働きが、特定の食べ物に対して働いてしまい、本来無害であるはずの食べ物
に対してアレルギー反応が起こってしまうのです。
この「免疫」というシステムが、特定の食べ物に対して過剰に働くことによって、反対に体に不利益な症状が出てしまうアレルギー反応を、食物アレルギーといいます。
メカニズム
食物アレルギーの場合、特定の食べ物に対してIgE抗体という免疫が出来てしまうことで起こります。
アレルゲンとなる食べ物を摂取すると、血液中にIgE抗体が入って体中に行き渡ります。
血液を通して運ばれた「IgE抗原」が皮膚や粘膜に存在している「マスト細胞」と結合することで、ヒスタミンなどの化学物質が放出され、皮膚のかゆみや鼻づまりなどを引き起こすと考えられています。
IgE抗体が原因で起こる食物アレルギーは、食べ物を摂取してから2時間以内に起こる即時型アレルギー反応であることがほとんどです。
しかし、食物アレルギーは年齢とともによくなることが多いです。
それは、免疫学的寛容といって、子供の頃には未熟だった消化機能が原因となって引き起こされたアレルギー反応が、成長し、アレルギー食物に慣れていくことによって、アレルギー反応がなくなっていくからです。
アレルギーとなる食べ物
食物抗原といって、アレルギー反応が出てしまう食べ物にはさまざまな物がありますが、多くはタンパク質を介して起こります。
何によってIgE抗体が作られるかは、個人によって異なるので、アレルゲンとなる食べ物も人によって違います。
日本の子供に多いアレルゲンは、鶏卵と牛乳です。
この2つに、小麦、大豆、米を加えた5つを、5大アレルゲンと呼びます。
また、アレルゲンは1人ひとつではなく、いくつものアレルギーを持っている子供もいます。
給食でのアレルギー誤食による死亡事例
アレルギーの誤食事例の中には、子供が死亡した事例もあります。
一歩間違えれば死につながるもの、という認識で対応しなければなりません。
次に見る死亡事例は、小学生の事例ですが、同じように保育園や幼稚園でもありえる事例です。
東京都調布市小島町の市立富士見台小学校で、乳製品にアレルギーがある小学5年の女子児童(11)が給食後に体調不良を訴え、搬送先の病院で死亡していたことが21日、警視庁調布署などへの取材で分かった。
同署や市教育委員会によると、女子児童は20日昼の給食で、他の児童用で余っていたチーズ入りチヂミを食べた後に「気持ちが悪い」と訴え、学校側が119番。病院に運ばれたが約3時間後に死亡した。急性アレルギー反応の「アナフィラキシーショック」で死亡したとみられる。
女子児童はチーズや卵にアレルギーがあり、通常は該当する食品を除いた給食を食べていた。同署は詳しい状況を調べている。
出典:日本経済新聞
調布市の死亡事例は、文部科学省から報告書が出ています。
実は、この調布市での事例は、文部科学省がアレルギー疾患取組ガイドラインを出した2008年、そして、厚生労働省が2011年に出した、保育所におけるアレルギー対応ガイドラインより、後に起こった事例なのです。
この事故では、学校内では、調理員が当該児童に除去食について伝え漏れがあったこと、お代わりの際に担任が除去食用の献立を確認しなかったことの2点が重なり、誤食を招いています。
ガイドラインがあっても、理解を深め、各園に対応できるだけの仕組みやマニュアルがなければ意味がないのです。
この事故で亡くなった児童の、お母さんのお話です。
東京都はショック症状を和らげる注射をどのタイミングで打つかなど指針を出しました。万が一の対策は必要ですが、もっとシンプルにどうしたら食べられない食材を口にしないかを考えてほしい。詳しい献立表で担任が確認しないと給食を食べさせないルールづくりをしてほしい。アレルギーの子どもがいる家庭は何に注意しているかというと、注射の打ち方じゃなくて食べてはいけない物を食べさせないという一点に集中している。学校でも保育所でも同じだと思います。
アレルギーを持つ子供の親は、食事の度に不安があります。
アレルギーのある子供の誤食を防ぐための仕組みづくりを、しっかりと考えていかなければいけません。
給食におけるアレルギーの基本的な考え方
厚生労働省が作成した『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』では、保育所における食事の提供に当たっての原則として、以下のような考え方が示されています。
○ 保育所における食物アレルギー対応に当たっては、給食提供を前提とした上で、生活管理指導表を活用し、組織的に対応することが重要です。
○ 保育所の食物アレルギー対応における原因食品の除去は、完全除去を行うことが基本です。
○ 子どもが初めて食べる食品は、家庭で安全に食べられることを確認してから、保育所での提供を行うことが重要です。
生活管理指導表の活用と医師の診断書
こちらのガイドラインでは、生活管理指導表も参考様式に掲載されています。
給食における食物アレルギーへの対応は、すべて医師の診断書によるものでなければなりません。
これは、食物除去を申請するときも、食物除去を解除するときも、医師の診断書が必要であるということです。
生活管理指導表を作成することで、職員、保護者、かかりつけ医・緊急対応医療機関が十分に連携することができます。
また、アナフィラキシーへの対応についても、職員全員で共有することが大切です。
完全除去を基本とする
アレルギーの食物除去については、完全除去を基本としなければなりません。
これはどういうことかと言うと、特定の食物に対して、アレルギーがあるか、ないかの二択のみで除去食を提供するかを判断する、ということです。
例えば、鶏卵アレルギーの子供が複数人いたとします。
家庭での食べ進めや、医療機関での負荷試験が進んでおり、鶏卵を含む食事を一部食べられるようになってきた子供もいます。
しかし、A君は豚カツの衣に使う程度の卵は食べられて、B君は生卵以外は食べられて、Cさんは鶏卵が一切食べられない、という状況で、一人一人に合わせた除去食の提供を行っていると、対応が難しくなり、人的エラーが起こりやすい環境になってしまいます。
また、食べ進めが進んでいるとはいえ、体調によってはアレルギー反応がでることもありますし、保護者がいない状況でアレルギーを含む食事を提供するという対応は、難しいものです。
個々の食べ進めに応じた除去食の提供を行わず、A君もB君もCさんも、みんな鶏卵の入った食事を除去する、という『完全除去』の原則は、安全な給食の提供を最優先することにつながるのです。
家庭で食べた経験のある食品のみを提供する
保育園や幼稚園で、初めての食品を摂取することを避け、家庭で食べた経験のある食品のみを提供することで、給食の安全を担保します。
これは特に、アレルギーがあるかないか、まだわからない0歳児や1歳児の『離乳食』においても、重要な対応です。
アレルギーがあるかないかに関わらず、給食の献立に載っている食品は、先に家庭で食べ進めを行ってもらう必要があります。
給食のアレルギー食の種類
では、給食におけるアレルギー食には、どのようなものがあるかを見ていきましょう。
アレルギー除去食
アレルギー除去食の提供は、多くの園で行われています。
アレルギー除去食では、アレルギーを持つ子供にのみ、アレルゲンとなる食品を抜いた食事を提供します。
除去食の提供には、保護者の負担軽減と、アレルギーをもつ子供が他の子と同じような食事を食べられることに、一定のメリットがあります。
しかし、アレルギー除去食は、他の給食と同じ部屋で作られることがほとんどです。
故意はなくても、給食調理の際に、除去食の中にアレルゲン物質が混入してしまう可能性は否定できません。
一部お弁当持参
アレルギーをもつ子供の親が、アレルゲンが含まれる給食がある場合に、家庭で作ってきた代替食をお弁当として持参します。
お弁当持参食も、アレルギー対応として行っている園もよくあります。
持参食は、給食室で調理の際にアレルゲンが混入することを防ぐことができます。
しかし、家庭から調理した食事を持参してもらう場合、保護者の調理負担が大きくなるというデメリットもあります。
特にアレルギーの多い子だと、毎日持参しなければならず、給食費の過多負担にもつながります。
また、持参してもらったお弁当も、腐敗や食中毒を防ぐために、調理室での保管、再加熱が必要です。
持参した園児がたくさんいる中で、食事を提供する園児を間違えたり、クラスへの配り間違えの可能性もあります。
代替食
代替食は、アレルギー物質のある食事がある場合、調理室で全く別の食事を調理して提供します。
全てのアレルギー食を代替食とするわけではなく、除去食では対応できない食事に関してのみ、代替食の提供を行うこともあります。
アレルギー除去食よりも、栄養面で配慮できるというメリットがありますが、保護者に代わって調理室で代替食を調理するので、当然、調理室への負担がかなり大きくなります。
また、調理室の規模によっては、代替食を作る場所や人が不足してしまいます。
すると、アレルギー物質の混入といった重要なミスにもつながりますし、提供時間が間に合わずに人的エラーが起こりやすい環境も生じてしまいます。
人的エラーをなくすマニュアル作り
厚生労働省が作成した『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』では、保育所における誤食の主な発生要因を、このように示しています。
① 人的エラー(いわゆる配膳ミス(誤配)原材料の見落とし、伝達漏れなど)
② ①を誘発する原因として、煩雑で細分化された食物除去の対応
③ 保育所に在籍する子どもが幼少のために自己管理できないこと など
②に関しては、先ほど記述した『完全除去』の原則で、対応していくことが必要です。
つまり、自己管理できない年齢の子供を保育する保育園や幼稚園では、給食を提供する調理員と、配膳する保育者の人的エラーをなくす努力が必要なのです。
献立表はトリプルチェック
献立表が作成されれば、アレルギーの含まれる食事をチェックしていきます。
献立表のチェックに関しては、保護者、保育者、調理員のトリプルチェックが必要です。
チェックする順番に関しては、アレルギー児用の献立表の作成が先であれば、調理員か保育者が先にチェックします。
アレルギー食品をチェックしてからアレルギー児用の献立表を作成する場合は、先に保護者にチェックしてもらいます。
加工食品に関しては、使用する原材料をすべて明記するかコピーして明示し、みんなでチェックします。
また、除去食を担当する調理員は、業者への発注ミスや、業者からの納品ミスがないか、調理前に確認します。
お弁当持参がある場合は、先に保護者にチェックしてもらうことで、持参忘れを防ぐ効果もあります。
また、チェックする人が3人いると、見落としを防ぐこともできます。
できるだけたくさんの目で確認することが、献立のチェックミスを防ぐことにつながります。
チェックした献立表は、コピーして、保護者、保育室、調理室、職員室の4枚をそれぞれが保持しておきます。
また、そのうちの1枚は翌月以降も保管し、同じメニューがあった時の参考にします。
個々の献立表の作成
個々の献立表の作成では、『完全除去』を行っていない園では、それぞれに応じた除去食やお弁当持参食、代替食を明記します。
『完全除去』を行なっている園では、卵アレルギー用など、特定のアレルギーのみをもつ子供用の献立表、複数のアレルギーを持つ子供には、個々に応じた献立表の作成を行います。
アレルギーが1つの子供同士であれば、除去食は同じメニューとなり、管理が楽になることで人的エラーを減らすことができます。
個々の献立表も、保護者、保育室、調理室、職員室の4枚を保管して、翌月以降も1枚は保管するようにします。
口頭と指差しによるアレルギー確認の徹底
新年度の始めの方には行っていた口頭や指差しでの確認も、慣れ合いや日々の忙しさから、確認不足が生じてしまうことは多々あります。
しかし、どんなに忙しくても、口頭と指差しによるアレルギー確認は、配膳する保育者や調理員本人と、周りの保育者との情報共有、配膳ミスを防ぐために、必ず行うべき行動です。
口頭と指差し確認が必要な場面は、たくさんあります。
アレルギーカードの作成
口頭と指差し確認と同時に、アレルギーカードを作成し、一緒に確認します。
アレルギーカードには2種類あります。
一つ目は、名前とアレルギー名を記載した簡単なカードを、毎日子供の給食の席に置きます。
これは、フリーの先生などにも、わかりやすく伝えるため、そして配膳の場所を間違えることを防ぐためです。
ラミネートしておけば、1年間使い続けることができます。
二つ目は、毎日の献立に関して、調理員とやり取りするために作成するアレルギーカードです。
保育者が作成したカードを、調理室から受け取る際に調理員に渡して、口頭と指差し確認をします。
カードを渡す場面を作ることで、必ずアレルギー食を作った調理員とコンタクトを取らなければならない状況にすること、そして、引渡し時のミスを減らすことが目的です。
アレルギー専用の食器と台ふきを使用
まだ幼い園児たちは、自己管理ができず、食べこぼしも多いのが現状です。
同じ食器を使ってしまうと、食器が入れ替わってしまう可能性も否定できませんし、配膳時のミスを誘発してしまいます。
また、食べこぼした物を同じ台拭きで拭いたことが原因で、アレルギー物質の混入にもつながります。
アレルギー児の使用する机は、専用の台拭きを使用し、食器もアレルギー児専用のものを用意して対応します。
アレルギー児のみの机、座席の確保
アレルギーがある子供とない子供が同じ机で食事をとる際、やはり食べこぼしによる誤食の危険があります。
アレルギー児のみの机を用意し、他の子供とは別の座席で食べる園もあります。
ただ、子供によってアレルギーの違いがあると、すべての子供に対する机の確保も難しいですし、アレルギー児が他の子供と離れて食事を取ることは、食育や心の安定面での不安もあります。
まとめ
ひと昔前よりも増えている、アレルギーのある子供。
時代に合わせた変化が求められており、食の安全を確保するためにも、園同士が交流し、アレルギーを防ぐ取り組みの情報交換をして、社会全体で誤食を防ぐ努力をするべきであると思います。
毎日、バタバタとした時間になりがちな給食の配膳ですが、そんな時こそ落ち着いて、保育者同士で助け合い、調理室とも連携して、子供の尊い命を守る選択をしましょう。
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