通園バスは、幼稚園や保育園までの送迎手段として、忙しい保護者にとってはとてもありがたいサービスです。
ただし、通園バスは絶対に必要なものではなく、あくまで保育の『サービス』の一環であり、過剰サービスになりすぎず、安全を第一とした適切な運用が必要となります。
2021年7月、福岡県中間市の保育園で、5歳男児が炎天下の通園バスに取り残され、熱中症で死亡するという重大事故が発生しました。
この事故を受け、福岡県では、再発防止に向けた送迎バスの運用指針を施設に通知し、マニュアル作成を定めています。
他府県でも、多くの園で、通園バスの運営マニュアルの見直しや再確認が行われたことと思います。
京都市では、安全マニュアルを作成し、幼稚園や保育園に通知していました。
マニュアルはバス運転士、バス添乗員だけでなく、園全体として共通認識を持つことが大切です。
また、間違えないようにすることも大切ですが、人は間違える、ヒューマンエラーは起こる、という認識の下で安全性を確保していく必要があります。
今回は、マニュアルを作成もしくは見直すにあたって、安全性を最優先とした通園バス運行のための重要ポイントをまとめていきたいと思います。
マニュアル作成は必須
そもそも、通園バスを運営している保育園や幼稚園に、通園バスに関するマニュアルが存在しない園もあります。
中間市の事故の後、以前、私が勤めていた幼稚園にもマニュアルがなかったことを思い出しました。
厳密に言うと、その幼稚園では、通園バスに関するルールはとても細かく決まっていて、運転士の方々も、添乗員も、皆一丸となって、子供の安全を守るという意識はありましたし、欠席確認などの方法も細かく決まっていました。
年度初めには職員全員でバスのルールを確認する機会がありましたし、乗降車時の安全にも、かなり気を配っている園だと認識しています。
ただ、マニュアルは見たことはありませんでした。
入職する時に、主任から細かくルールを口頭で説明され、自分でノートにまとめていました。
今思えば、やはりどんなに細かいルールが暗黙の了解として決まっていようとも、共通のマニュアルを紙やデータとして作成し、共有しなければいけないと思います。
通園バスは、利便性を重視した保護者にも喜ばれるサービスである一方、事故につながる危険性も高くなっています。
安全を第一とした運用、そのためのルール作りとマニュアル化は、必須事項です。
また、職員同士の口頭での説明には、曖昧さがある場合もあります。
マニュアルを用意し、可視化すること、そして定期的に確認することで、1人1人が通園バスへの安全に対する意識を高めることができます。
また、マニュアルやルールが形骸化しないよう、年度初めや学期初めなど、定期的に確認する時間を設けることが大切です。
通園バスのマニュアルに必要な項目
通園バスを運行するに当たって、安全性の面から必要と思われる具体的な項目を、いくつか紹介します。
幼稚園や保育園、こども園など、実態が違うので一概にこうするべき、とは言えませんが、最低限の必要事項となっています。
通園の送迎以外に通園バスを利用する場合も、同じような対応が求められます。
有資格者によるバス添乗員を配置すること
まず、中間市での事故が報道された時に、驚いたことがあります。
それは、バス添乗員を配置していなかったことです。
しかも、それでいて1歳児も乗せていたなんて、本当にありえないことだと思います。
どうやって園まで子どもたちを運んでいたのか、私には想像もつきません。
私が幼稚園に勤めていた時、自分の園はもちろん、同じ市にある私立幼稚園は全て通園バスを運行していましたが、バス添乗員がいない園バスなど見たことがありませんでした。
昨年、事故があったのは保育園です。
保育園は登降園の時間がバラバラであること、乳児保育も行なっていることから、通園バスを採用している園は、幼稚園に比べて非常に少なくなっています。
それでも、立地条件で通園バスが必要な場合は別として、他園との差別化を図るために、通園バスを運用している保育園もあるでしょう。
保育園では、特に保育士不足に悩まされているのが現状であります。
もし、添乗員を配置できないほど保育士が不足しているのであれば、通園バスは絶対に廃止すべきです。
運転士は保育を行えません。
ここだけは、声を大にして言いたいと思います。
通園バスを廃止したら、利用している保護者にとっては不利益が生じますが、重大事故を起こしてしまうより怖いことはありません。
保護者に歩み寄りながら、保育への理解を求めていく。
それが出来ないのであれば、添乗員を必ず雇用する必要があります。
また、添乗員に資格の有無を求めていない園もあることと思いますが、できれば保育士や教諭免許を持った人、最低でも保育補助として経験がある人が添乗すべきです。
バス乗車時間を、保育時間と換算しない園があり、だから有資格者なしで子供を送迎出来てしまうのだと思いますが、それは間違った考え方です。
なぜなら、保育では、子供は保護者からの直接引き渡しが基本であり、登園時に保育者の手に渡ってから、降園時に保護者に直接引き渡すその瞬間まで、すべてが保育時間という考え方が基本にあるからです。
つまり、添乗員のいないバスはもちろん、添乗員がいても資格や経験のない場合は、バス運行中に保育ができていない状態を意味しています。
ただ、この辺に関しては、今まで法令等でも整備がなされていなかったことも事実です。
法律や法令がなければ、何もしない経営者がいることも事実です。
だからこそ事故が起こるのです。
通園バスに乗った瞬間から保育が始まっていることを、たくさんの人に再確認していただきたいです。
また、通園バスに添乗員がいない園にお勤めの先生方も、有資格者や経験者による添乗員が必要であると、提言して欲しいと思います。
園で子供を降車させる時
中間市の事故では、子供を降車させる際にも重大な過失がありました。
通園バスから子供たちを降車させる時は、たくさんの危険性が隠されています。
重大事故が起こったのは③ですが、頻度としては①や②の方が多いかと思います。
③に関しては、確認すれば起こらないことが多いですが、中間市の事件を見て、保育に絶対はないこと、ありえないと思うような人的ミスが簡単に起こってしまうことを、思い知らされた事件でした。
決して、他人ごとではありません。
では、降車時に必要なことは何か。
降車させる場所や駐車場の立地条件など、園によって様々なので、一概にこうするべきというものはありません。
ただ、先述した①②③の事故が起こる場所全てに保育士等を配置させる必要があり、降車に関わるすべての人が必ず人数確認をすることは必須です。
完全にバスが停車することができる場所では、バス運転士が運転席から降りて、子供を降車させる補助に回ることも可能です。
つまり、場所によっては、運転士と添乗員で乗せ下ろしをすることが可能です。
②添乗員は先にバスの外で子供たちを並ばせながら、人数確認を行う
③バス運転士は子供が全員降りた後、車内の確認をする
ただ、これでは最低限ですし、場所や子供の人数、年齢によっては大人2人で子供を降車させることは不可能なので、園に到着後、さらに補助の先生が必要になりますし、自分の園でどこにどのような人員配置が必要か、シミュレーションして決めていきます。
①②③別の人が行うことが1番の理想であり、4月など、特に新年度の初めには、バス降車時にたくさんの人員を配置すると良いでしょう。
決まった人員配置は必ず守り、マニュアル化して記載しておきましょう。
また、降園時に園で乗車の際も、逆の手順を踏むので、同じ人数が必要になります。
バスに子供を乗せる際に視診する
朝、子供たちを迎えに行った時、「おはようございます」と子供と保護者に挨拶をして、子供一人ひとりを認識しながらバスに乗車させます。
子どもの目を見てコミュニケーションを取りながら、子どもの健康状態を視診します。
登園時のバス添乗の際は、登園したくない子どもがいたり、逆に体調不良でも登園したいと無理してしまう子どもがいたりと、子どもの朝の気持ちや健康状態に気を配って添乗することが大切です。
とりあえずバス停にいる子供を乗せて園に連れていけばいい、ということではありません。
バス乗車時間も保育時間と考えることが基本なので、ここで添乗員が責任を持って子供たちを迎え入れる必要があります。
一人ひとりを視診するうちに、子どもの様子を添乗員が自分の記憶に残しておくこと、もしくはバス乗車中の子供の様子をメモするノート等を利用することも、重大事故を防ぐために必要なことです。
バス内では、交通事故の危険があることも子供に伝え、大きな声を出さないことや、駐車するまで立ち歩かないことを約束し、騒いだりした場合はその場で注意します。
バス通園利用児の出席確認の方法を明確にする
通園バス利用児が欠席する場合の連絡手段も、細かく決めておきます。
こちらも、中間市の事故では重大な過失がありました。
でも、だからといって、亡くなった子供の命が戻らないことに、変わりはありません。
欠席確認を行わないことで起こる事故の重大性を、保育に関わる全ての人が認識すべきです。
多くの園では、欠席者の数を正確に把握しないと、給食数に影響するので、ホワイトボードや給食数ノートに記入して、職員室等で全体把握しています。
人数だけでなく名前まで書くのは、給食における食物アレルギーの関係があるからです。
ここに名前がなく、連絡なしで欠席の場合は、給食数の確認もあるので、遅刻か欠席かの判断を行うために、決められた時間までに保護者に電話確認することが多いでしょう。
欠席者の連絡を添乗員や運転士にし忘れると、バス停に来ない子供を、園バスがいつまでも待ち続けることになるからです。
通園バス利用児が欠席の場合は、色々な伝達手段が考えられます。
園の実情に応じた方法が必要となります。
できるだけ人的ミスの少ないと思われる方法を採用します。
また、添乗員は携帯電話を持って通園バスに乗り、直前の欠席連絡があった場合は、添乗員が持つ携帯電話に連絡を入れます。
また、バス停に来ていない子供がいた場合は、保護者への確認の連絡を、バス添乗員が携帯電話を使って行うのか、園から保護者へ連絡するのかを、決めておく必要があります。
欠席だとわかった場合は、担任へ必ず連絡します。
逆に、通園バス利用児が園に来ておらず、バス名簿等にもチェックがない場合は、どのような手段でも添乗員に必ず確認をします。
徒歩通園児は、基本的には対面での引き渡しが可能であり、保護者が保育士に子供を引き渡す時点での登園チェックが可能です。
なので、徒歩通園の場合は、連絡がなくても登園していない場合は欠席、としている園もあるかもしれません。
ただし、通園バス利用児は、欠席連絡なしで欠席することが通常は不可能です。
しかし、バスへの置き去りはありえないと思って、通園バスで登園して来なかったということは欠席なんだろう、バスに乗っていた園長が把握しているであろうという思い込みから、担任保育士は欠席かどうかの確認をしなかったので、置き去り事故が起こったのです。
保護者から欠席連絡がない場合は、
この3つの過程を踏むことが基本ということも、マニュアル化しておくことが大切です。
乗車時間は30分から40分を目処にする
通園バスが1コースを回って園に戻ってくるまでの時間は40分〜50分に設定します。
最初に乗車した子供が、どんなに長くても40分程度で園に戻って来られるようにしなければいけません。
これらを回避するには、乗車時間を短くする他ありません。
1時間を超えるようなコースの場合は、乗っている子供にとって、決していい環境とは言えません。
バスコースを変更し、便数を増やすことで、子供をこまめに園に送り届け、一人当たりの乗車時間を減らす仕組みに変更した方がいいでしょう。
緊急事態時の対応を決めておく
地震などの災害時、交通事故、体調不良の子供が出た場合の対応を細かく決めておきます。
バスのルートを決める際に、必ず試走し、様々な緊急事態を想定してシミュレーションを行うことが大切です。
地図上で見るだけでなく、必ず一度は緊急事態時の対応を確認しておきます。
どのような場合でも、第一に人命救助を優先した対応が求められます。
まずは、乗車している子供の安全を確認し、状況に応じて救急車を呼んだり警察へ連絡をします。
手順をシミュレーションしたり、人命救助のための講習を受けることも大切です。
まとめ
通園バスを運行するに当たって、安全性を重視したバス運行に関わる項目をまとめました。
まだ、マニュアルができていない、これから通園バスを運行したいという場合は、参考にしていただきたいと思います。
通園バスが安全性を無視した過剰サービスにならず、園にとっても保護者にとっても、通園バスがあってよかったと思える環境、そして子供が楽しく安全に通園できる運行になればと、強く願っています。
最後に、人的ミスは起こりえる、という認識のもと、バスに取り残された子供がいないか確認できるシステムの開発が望まれます。
実際にアメリカではスクールバスに乗って通うので、ブザーが鳴るなどのシステムが導入されています。
日本でも、実用化に向けて開発中の企業がありますので、載せておきたいと思います。
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