2022年9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、3歳女児が朝の送迎バスに乗ったまま5時間置き去りにされ、熱射病により死亡するという重大事故が発生しました。
この事故の1年前の2021年7月29日には、福岡県中間市の認可保育園「双葉保育園」でも、5歳男児が送迎バスに取り残され、熱中症により死亡する事件が起きていましたが、教訓は生かされないまま、同様の重大事故が発生してしまったのです。
保育の現場では、安全が最優先されるべきであるべきであり、死亡事故は最も起こしてはいけない事故です。
この2つの事故に共通していることは、安全性を軽視した「~だろう保育」を行っていたことです。
重大事故など起こすはずがないだろう、という思い込みが、確認不足や慣れに繋がります。
また、園バスで送迎している間も保育時間であることも、考え方の基本として必要です。
私は、園バス利用の安全を向上させるために、この事故をきっかけにして、とはどうしても思えません。
保育の安全を最優先に考えて園バスを運行している園はそもそもたくさんありますし、安全が保障されるために、命を奪われる子供の犠牲があってはならないと思うからです。
ただ、このような悲しい事件がもう起こらないために、再発防止に向けた取り組みは保育に関わる全ての人が取り組まなければなりません。
「暑くてかわいそうだったね」「気をつけましょう」だけではなく、具体的な予防策が必要です。
そもそも、問題が浮き彫りになったのは、夏の暑さで熱中症になったことであり、死亡事故には至らなかった園児の置き去りがあったことを発表する園や市町村も出てきています。
このようなニュースを見ると、私はひやりとします。
普段ちゃんと安全管理をやっていても、たった1回のミスでも命が奪われる危険があるからです。
基本的なことを、当たり前の行動を、手を抜かずに積み上げていくことの大切さを感じました。
私も保育者の一端として、この事故に真剣に向き合うため、事故の原因となった点を徹底的に究明し、再発防止に向けた取り組みを考えたいと思います。
※今回は、「川崎幼稚園」の事故を中心に考えていきたいと思いますが、ほとんどが「双葉保育園」でも同じ、または同様の原因で事故が起こっています。
園が発表した4つの原因
川崎幼稚園は、事故の2日後に謝罪会見を開き、園バスでの置き去り死亡事故が起こった原因を4つあげています。
幼稚園側は、事故が起きた原因を4つ挙げました。
川崎幼稚園・杉本智子副園長:「1つは、バス下車時に、乗車名簿と実際に下車する園児を照合する決まりとして伝えられていなかった。2つ目に、バスが幼稚園に到着し、園児がバスに取り残されていないかをダブルチェックする決まりになっていなかった。園児が下車した後に、運転手がバス車内を確認しなかった」
園に到着し、最初に1人を降ろした後、残りの5人には、自分で降りるように声をかけたということですが、千奈ちゃんが降りたかどうかは、確認していなかったということです。
川崎幼稚園・杉本智子副園長:「3つ目に、クラス補助が最終の登園情報を確認していなかった。4つ目に、登園する予定の園児が教室にいなかったにもかかわらず、クラス担任が『職員室に確認』『保護者に問い合わせ』をしなかった」
川崎幼稚園では、休みや遅刻などをする場合、保護者がアプリに、その旨を打ち込みますが、登園する場合は何も打ち込みません。千奈ちゃんの保護者は、何も打ち込んでいませんでした。
会見で川崎幼稚園が発表したことをまとめると、事故が起こった原因はこの4点となります。
②バスを降りた後に、添乗員も運転手も子供の置き去りや忘れ物チェックをしていない
③クラス担当者がアプリによる登園チェックをしていない
④担任が女児がいないことに気付きながらも、欠席確認をしていない
欠席チェックの仕組みについて
出席確認をする前に、欠席者のチェックが必要です。欠席者を把握してこその、出席確認と人数確認です。
アプリやICTなど、保育者の業務負担軽減につながる便利なツールを使用しても、結局はそのツールを使う人間の行動が一番大切です。
川崎幼稚園では、アプリを使った欠席チェックを行っていましたが、この事故は、アプリを使っていようともいなくても、保育者の行動や、園が全体として行っていた欠席チェックの仕組みによって、結果は同じだったのではないかと推測されます。
なので、アプリを利用するしないに関わらず、アナログでも同じように、欠席チェックの仕組みに不備があったのです。
登園時間を過ぎる前に欠席チェックをしたこと
副担任が欠席を確認したのは、送迎バスが到着する前のことでした。
それをもって、欠席の確認したと思い込んでいたようですが、この行動は、ただの途中経過の確認に過ぎません。
バスが到着して、徒歩通園児の通園時間が終わった後にしてこその、欠席確認です。
副担任の行動からして、補助として保育室に入る前に欠席者の確認をすることが、日常的になっていたのではないかと思われます。
この日だけ、全員の登園時間が終わる前の時間に確認したとは、私には思えません。
バスが来ていない時間にチェックしたことに違和感を覚えなかったのだと思います。
また、そのチェック方法が、園全体として当たり前の行動になっていた可能性もあり、管理職も同じように、欠席チェックの仕組みを甘く考えていたのであろうと思います。
川崎幼稚園の会見では、弁護士がこのように話していました。
川崎幼稚園の弁護士
「保護者に電話しても出ないとか、『ごめんなさい、忘れてました』という場合が結構多くあったらしい。そういうのがあって徐々に“来てない場合は必ず確認する”というのがちょっとずつ疎かになっていった」
出典:TBS NEWS DIG「連絡無く休む園児もいたため…」置き去りの園児を“無断欠席”と認識 園のずさんな管理が明らかに 海外では検知システム義務化も
この話は、実は事故の状況と矛盾しています。
だって、本来被害女児が登園する時間以降に、アプリ上で欠席連絡がない=登園扱いになっている、ということすら確認していないからです。
この弁護士が話しているのは、あくまで登園扱いになっていることを担任が確認したけれど、欠席連絡がない子供に関して、無断欠席だろうと思ったということです。
この事故では、保育室に来ていないのに、アプリ上は登園になっていることすら、そもそも確認していない中で、無断欠席だろうと思うこと自体が間違いなのです。
バス通園児の欠席確認を添乗員が今までしていなかった可能性
担任が、園児が来ていないのは無断欠席かも、と思うのは、その園児が保育室に登園していないからであって、バス通園児は、子どもを乗せるバス停に到着した時に園児や保護者の姿が見られなければ、本来ならばバス添乗員が園や保護者へ欠席確認をすることが基本です。
徒歩通園児は、子どもを保護者から預かるのは園内であり、担任もしくは門番が子供の登園を確認するので、仮に来ていない場合でも、今日は休みかもしれない、と疑う余地はあります。
しかし、今回の事故では、担任は被害園児がバス通園であるにも関わらず、今日は休みなのかなと思ってしまったのです。
バス乗車時に欠席確認をすることが基本になっている園であれば、担任はこう思うことができます。
そうして、添乗員にその園児がバスに乗ってこなかった経緯を確認するはずです。
つまり、今までも川崎幼稚園では、子どもを乗せるバス停に到着した時に、子どもの姿がなければ、添乗員は保護者や職員室への確認をせずに、そのままバス停を通過していたということになります。
そして、添乗員による欠席確認をする仕組みがなかったことが、担任や副担任の「バス通園の子供だけど欠席かもしれない」という思い込みにつながったのではないかと考えられます。
保護者から子供を預かる時が、欠席確認を行うべき時、つまり、バスを利用している場合は、休みかなという無断欠席を疑う時点はバス乗車時であり、バス停に子供がいない時点で、そもそも添乗員が欠席確認をすべきだという、基本的な欠席確認の仕組みを、川崎幼稚園の関係者は誰も理解していなかったのかもしれません。
担任も保護者への欠席確認をしていない
バス添乗員が無断欠席等の連絡をする、という仕組みが出来ていなかった上で、担任は、被害園児が欠席なのかなと考えていたと仮定します。
バス通園児の欠席確認を誰が行うのか、明確でない中、担任も副担任も、このどれかだと思い込んだはずです。
この3つを想定して、どれかに当てはまるだろうと無意識のうちに思い込んで、何のアクションも取りませんでした。
①は登園時間終了後にアプリ上での欠席連絡の確認をしなかったこと、②はバス添乗員が欠席確認をすることの基本ができていなかったことに起因しています。
しかし、いかなる理由があろうとも、担任は責任を持って出席確認をし、子供の人数把握をして、一日の保育の安全管理に努めなければいけません。
なので、無断欠席であったとしても、それを確認する必要があるのです。
欠席連絡忘れは、よくあることだと思います。
それを保護者が欠席の連絡しないことがよくあったから、欠席確認が疎かになっていったなんて、責任転嫁もいいところだなと思って、この会見を見ていました。
添乗員の行動について
中間市の事故では、そもそも添乗員を配置していませんでした。
牧之原市の事故では、添乗員がいましたが、有資格者や園の職員ではなく、シルバーセンターから派遣された70代の女性だということが分かっています。
保育は、保護者から直接引き渡すことが基本であり、たとえ送迎バスでのお迎えであっても、保護者から園児を預かった瞬間から保育が始まっています。
つまり、有資格者、もしくは保育補助等の経験者であるべき添乗員の存在を、軽視していたと言わざるを得ません。
先述した通り、無断欠席が疑われるバス通園児への欠席確認を行うのも、本来であればバス添乗員の仕事であります。
園バスの添乗員は、決して「バスに乗っているだけでの仕事」ではないのです。
バスの横に立たず子どもを勝手に降ろしていた
そもそも、通園バスから子供が降車する際には、たくさんの危険が隠されています。
県によると、送迎バスには女児のほか2歳児1人、3歳児1人、5歳以上の園児3人の計6人が乗っていた。バスは5日午前8時48分に同園に到着し、女性派遣職員が低年齢の園児を先に降車させ、その他の園児には自分で降りてくるよう声を掛けながら門を開けて園内に入ったという。この時、女児が降りたかを確認していなかったとみられる。
つまり、バスを降車させる際にバスの入口に立つこともなく、降りた園児を整列させることもなく、もちろん人数確認もせずに、園内に入ったということです。
この添乗員の行動は、置き去りだけでなく、園バスを降車する時に起こりうる色々な危険性を認知できていないことの証明でもあります。
先述した通り、バスを降りる際には、まずステップにつまずいての転倒についての危険性を考える必要があります。
この認識がある園は、必ずバスステップの横に添乗員もしくは他の職員等が立ち、子どもを下す際に子供の手を取って降車させるようにします。
たとえ5歳児であろうと、重大事故につながる危険性のある所では、必ず安全性が最優先されるべきであり、ましてや登園時の荷物が多い子供に対して、つまずいて転倒する危険性が高いことは容易に想像できることです。
バスから子供を降ろす際に手を取ることで、子どもの転倒に対する安全の確保と同時に、子どもの名前を名簿を確認しながら呼び、一人一人を確実にバスから降ろしていく、という作業も兼ねることができるのです。
バスの横に添乗員や運転手、その他の職員が立って子供を降車させることは、ほとんどの園が行っている基本的な行動であると思います。
しかし川崎幼稚園では、その基本ができていませんでした。
降車した子供を整列させていない
川崎幼稚園が子供をバスから降ろした後、自分でバスから降りるよう声をかけ、添乗員は子供たちがみんな降りてきたと思い込んで、そのまま門から園に入ったということが、報道からわかっています。
降車してきた子供を、整列させることもしていなかったのです。
バスから直接、門内に入れる仕組みになっている園では危険は少ないですが、川崎幼稚園は添乗員が門を開けて入ったということなので、幼稚園の敷地内の門の外、もしくは、道路に接した場所で、子供たちを降車させているはずです。
そうすれば、降りてきた子どもたちが道路上で交通事故にあうことも想定しなければいけません。
なので、①子供を安全に降車させる人、②降りた後の子供を並ばせて誘導する人、の2人以上の体制でなければ、そもそも子どもを安全に降車させることはできないのです。
そして、バスから降りた子供を整列させるという手順を経て、人数確認をする時間へと繋がっていくのです。
降ろし忘れや忘れ物のチェックを怠っていた
子供を園で降車させた後、運転手やその他の職員が、子供の降ろし忘れや忘れ物のチェックを行うことが必要です。
川崎幼稚園では、普段は運転手がその役目を担っておりましたが、事故があった当日は、運転手が休暇を取ったため、理事長がハンドルを握りました。
そして、降ろし忘れや忘れ物チェック、新型コロナウィルス対策としての消毒や拭き掃除もせず、日誌を記入して自分だけバスから降りたため、そのまま園児が取り残されてしまいました。
日誌を書いている間も、被害園児は理事長に話しかけられず、降りていいよと言われるのを待っていたのかもしれません。
ただ、臨時の運転手だからと言って、全ての作業を怠っていいわけでは決してありません。
次の予定があったからと、会見で話していましたが、その予定と職務を怠ることに、関係はありません。
理事長は、この確認義務を怠った責任から、理事長職と園長職を辞職しています。
定員も少ない、小型の園バスです。
見て回るのに、たった30秒の行動で済むのに、それを怠った責任とその結果は重大です。
また、運転手以外の誰も車内を確認していません。
決して理事長でなくても、臨時の職員が運転手を務めたのであれば、安全な運行ができたのか、誰かが確認に行かなければいけなかったように思います。
保育業界は慢性的な人手不足ですが…でも、今回の事故に限っては、絶対関係ありません。
園バスから子供を降ろす際に、補助に入る先生が必要な時間って、どんな多く見積もっても最大で5分です。
また、保育者が子供を誘導するのであれば、車内の確認をする人や、子供が道路へ飛び出さないように見守る人は、保育者でなくても、事務員や用務員でもいいわけです。
園には、管理職だっています。
その最大5分を手伝う大人が園に1人もいないということは、決してないと、私は思っています。
事故原因から再発防止を考える
杜撰な安全管理の園が身近にあることも事実で、双葉保育園の事故後、全ての園に安全なバス運行をしてほしいと思って、☑通園バスでの重大事故を防ぐために安全最優先のマニュアルを作るという記事を作成しました。
川崎幼稚園の事故を受け、再発防止のため、安全管理に絶対に必要な要点を絞って書きたいと思います。
保育者や経験者の保育補助が添乗すること
やはり、私はどうしても、添乗員に保育を知らない派遣職員を配置してはいけないと考えています。
添乗員を派遣するサービスをしている会社も見受けられますが、派遣される職員が保育の経験があるかは、確認が必要です。
園バスの添乗員は、ただ、バスに乗っているだけの仕事ではありません。
保育者や保育補助の経験のある添乗員を確保できないほどの人手不足であれば、子どもの安全は確保されないので、園バスは廃止するべきです。
何度も言いますが、保護者から子供を預かった時点から、保育は始まっています。
その意識があれば、保育のことを知っている人が添乗すべきだという結論になると思います。
バス通園児の欠席確認は添乗員が責任を持つこと
川崎幼稚園では、普段から杜撰な欠席確認が常態化していたと思われます。
通常は、バス通園児の欠席確認は、そのバスの添乗員が責任をもって行います。
添乗員が確実に欠席確認を確実に行うために添乗員と運転手に必要なことは、以下の4つです。
この4点を守ると、バス添乗員が欠席数を把握することが可能になります。
子どもがバスから降りる時はバス入口付近に人員配置すること
子どもがバスから降りる際に、バスの入り口付近で子どもの手をとって降車させる人員配置が必要です。
マニュアル作成の記事でも載せましたが、添乗員が入り口付近に立つことも可能ですが、その場合は、別の職員がバスから降りてきた子供の誘導に回ります。
添乗員がバスから降りてきた子供の誘導に回る場合は、交通安全が確保できる場合やエンジンを止めて子供を降ろすことが出来る場合は、運転手がバスから降りて、バスの入り口付近に立って子供を降ろし、そのままバス内のチェックに回ることも可能です。
誰が、どのように安全を確保するのかを決めた上で、バスの入り口付近で子供の手を取って降車させる人員を配置します。
欠席連絡の確認は一斉登園時間が終わったあとにすること
欠席確認は、全員が登園するであろう時間を超えてからしてこその、欠席確認です。
アプリでもアナログでも一緒です。
出席確認は、その後の書類作成のために取るのではなく、子どもが安全に登園するために行うのです。
9時までの登園と決められているのであれば、9時以降に欠席連絡があるかを確認します。
こんなこと書くと、何を当たり前の事を書いているんだ、と思う人もいると思いますが、実際に事故が起きた園では、登園時間後の欠席連絡の確認は行っていません。
園としてそんな対応を取っていたつもりはないのかは不明ですが、少なくとも事故当日にそのような行動を取った保育者がいるということも事実です。
ルールの確認と順守を、徹底的に行わなければならないだと感じました。
バス降車後の置き去り確認はダブルチェックを
バス降車後の置き去りや忘れ物の確認は、どこの園でもやっていると思いますし、川崎幼稚園でも普段は運転手が行っていました。
しかし、臨時の運転手だった理事長は、会見前の報道では、このように話していたようです。
また、増田理事長と添乗した70代の女性派遣職員が「バスを降りる園児の人数のチェックは自分ではなく、相手がすると思っていた」とそれぞれ説明していることも判明した。
このように、運転手が行うことという認識はなかったようです。
誰か一人が確認すればいい、とすれば、相手がするものだと思い込むミスが出てきます。
2人以上が必ず確認する、とすれば、ミスは防ぐことができるのではないでしょうか。
ただし、このダブルチェックを必ず行うためには、必ず何らかのアクションが必要です。
今、人為的ミスを補完するものとして、センサーの導入などの解決方法もありますが、明日から使える簡単な方法としては、忘れ物チェック表を後部座席に置くことです。
アナログですが、とにかくたくさんの人がチェックをすることが大切です。
ルールの確認は定期的に行うこと
園で決めたルールを覚えているつもりでも、忙しさのあまり忘れていくこともあります。
川崎幼稚園でも、欠席の確認が少しずつ疎かになっていったとありますが、ルールを守らないことで起こる危険やその責任感が、少しずつ薄れていくこともあります。
子どもの安全を確保するために、絶対に必要なことなのだと思えば、忙しくても5分程度の行動を怠らないでおこうという意識も持ち続けることができます。
ルールやマニュアルを作っても守らない保育者や、センサーを導入しても電源を切ってしまう管理職がいれば、また事故は起こります。
必要なルールを揃え、またはセンサーやブザーなどが導入されたとしても、それを使う人の手によることも大きいです。
どの保育者も、決して他人事だと思わずに、ルールを確認し必要な手順を守ることで、子どもの安全が守ることを心に決めて、保育に携わっていくべきだと思っています。
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