保育をしていると、一歩間違えれば大けがだった…という場面に遭遇することがあると思います。
重大な事故にはならなかったけれど、ヒヤリとした場面、ハッとした場面のことを「ヒヤリハット」と言います。
ヒヤリハットはリスクマネジメントの一環で、様々な現場で重視されています。
保育では、ヒヤリハットをどのように集め、どのように活用していけばいいでしょうか。
ヒヤリハットは「気付く」ということ
ヒヤリハットは、危なかったけれど実際には事故に至っていない場面のことを言います。
保育園や幼稚園でも、様々な出来事が起こっていますが、ヒヤリハットは保育者が「ヒヤリとした」「ハッとした」となったからこそ「ヒヤリハット」の事例として上がってくるのです。
その意味で、「見ていなかった」「ケガしなくて良かった」という意識で止まってしまうものは、ヒヤリハットとは言えないのです。
でも、その事例を「ヒヤリとしなかったから報告しなかった」ことで、次に重大な事故が起こってしまうかもしれない…。
ヒヤリハットを見つけられる人
職員会議で、ヒヤリハットの事例を検討している園も多いと思います。
しかしながら、ヒヤリハットを見つけられなかったり、ヒヤリハットは失敗事例だと思って会議で報告しない保育者もいます。
逆に、ヒヤリハットをたくさん見つけられる人は、「日常の様々な場面にアンテナを張り、常に危険を意識している人」と言えるでしょう。
給食時のちょっとした出来事、戸外遊びでのちょっとした出来事、制作中のちょっとした出来事…。
見逃してしまいそうなちょっとした出来事まで、しっかりヒヤリハットとして認識できる人が、ヒヤリハットをたくさん見つけられるのです。
やはり、新人の間は保育のことで手がいっぱいで、小さな出来事を見逃してしまうことが多いと思います。
保育園なら複数担任で伝え合うことができますが、幼稚園でいきなり一人担任となると、見逃しも多くなるのではないでしょうか。
保育も大切ですが、安全を大切にしなければいけないということを、認識しあえる場があると、ヒヤリハットの発見に大きく繋がっていくと思います。
ヒヤリハットは失敗とは思わない
「この事例は、保育者の準備不足や監視不足で起こったものだから、報告すると怒られる」と思って、実際にヒヤリハットの検討会議でも報告できない新人保育士もいます。
でも、ヒヤリハットは、決して失敗と思ってはいけません。
もちろん、そのヒヤリハットの中に「こうすれば起らなかった」「ここができていなかった」と反省はしなければなりません。
ですが、その気付きを認め、検討し、改善策を立てていくことにこそ、ヒヤリハットの意味があるのです。
ヒヤリハットを検討する会議は、「あなたのここがダメなんですよ」「ここが出来ていないんですよ」と烙印を押すためにあるのではありません。
同じ園の環境で保育しているのであれば、その園で働く職員に誰にでも起こりうる事態かもしれないのです。
「次からはこうしよう」という対策を立て、「こうすればいい」というアイデアを出し合いながら、ヒヤリハットが起った事例を次も重大な事故にしないために、報告する場が設けられているのです。
ヒヤリハットはどんなものがある?
ヒヤリハットは、本当に小さな日常の出来事でもいいのです。
「乳児が、幼児用の大きな滑り台に登ろうとしていた」という事も、ヒヤリハットです。
もし登って落ちていたら…と、その先にある危険を見れば、出来事は小さいけれど、重大なヒヤリハットになりますね。
「登らせないようにしよう」で終わるのではなく、「登ろうとしていてヒヤリとしたから、幼児と一緒に遊ぶ時間は場所を区切ろう」などと、園の環境に合わせて具体的な案にまで繋げていかなければなりません。
小さなことが、重大な事故を未然に防ぐために役に立つのです。
ヒヤリハットは匿名にすると集めやすい
ヒヤリハットをノートに書いておき、担任間でいつでも共有できるようにしたり、会議で報告するスタイルの園が多いと思います。
実際、私が経験した園でも、すべてノートへの記入と会議での報告でした。
しかし、ヒヤリハットは自分のミスを露呈しなければならない事もあり、重大なヒヤリハットが報告されない事もあります。
もちろん、ヒヤリハットの共有は事故を防ぐためだからどんな事でも話し合おう、という園では、様々なヒヤリハットが集まります。
それでも、報告されていないヒヤリハットがあるかもしれません。
そこで、ヒヤリハットは、「匿名」で「迅速」に報告するべきだという意見もあります。
ヒヤリハットがあった時に、職員室のホワイトボードなどに「〇歳児で〇〇があった」という付箋を匿名で貼っておき、すぐに誰でも確認できるようにしておくことで、ヒヤリハットは集まりやすく、尚且つ迅速に共有できるというものです。
是非、参考にしてください。
事例
私自身が経験した事例や、会議で報告にあがったもの、他の園の保育士から見聞きしたものも事例として挙げていきます。
誤飲・誤嚥
特に乳児のいる保育園では、誤飲や誤嚥のヒヤリハットはたくさんあると思います。
ままごとの食べ物を口に入れていた
0歳児のおもちゃの中に、ままごとの”いちご”があったのですが、1歳2か月の女児の口の中にすっぽりと入ってしまいました。
その時に、のどを詰まらせるなどの危険があったわけではありませんが、月齢がもっと低い子供が同じ部屋にいることも考慮し、口にまるごと入ってしまうようなままごとのおもちゃは、すべて除外することにしました。
離乳食を口に詰め込みすぎた
11ヵ月の男児が、一口量がわからず、手づかみでどんどん口に入れ、飲み込めずに泣いていました。
その時は口から食べ物を出して対応し、詰まらせることもありませんでした。
まだ一口量がわからず詰め込みやすい時期の子供には、飲み込める量にしたり、噛み切れない肉類は小さく切って提供することにしました。
早朝保育時に幼児クラスのおもちゃを飲み込んだ
この事例は、保育士から聞いたものではなく、保育園に預けていた友人から聞いたものです。
早朝の合同保育時、1歳児の女児が、幼児クラスのとても小さな木のブロックを飲み込んでいました。
次の日に、子供の排便と一緒に飲み込んだブロックが出てくるまで、保育士も気付いていなかったそうです。
飲み込んでも大丈夫なおもちゃだったので、幸い子供の体に影響はなかったそうです。
早朝保育や夕方延長保育は、合同保育になることが多く、担任が保育を行うわけではないので、どのおもちゃで遊ばせればいいか、園で検討していかなければなりません。
この事例も、園でヒヤリハットとして共有されていることを願います。
絵本を破って食べようとしていた
絵本の端が破れていることに気付いた2歳児の男児が、絵本を破っていました。
他の子供が気付き、「破ったらだめだよ」とその男児に言っている場面を保育士が発見し、食べようとしていたのを止めました。
破れそうになっている絵本はビニールテープで補強し、また補強できないものは処分しました。
アレルギー
食物アレルギーのヒヤリハットは、様々な園で起こっていると思います。
実際に誤食も多く、保育士や調理員によるヒューマンエラーによって起こります。
アレルギー児に普通食の米飯を配膳
アレルギー児の対応で、同じ米飯であっても違う食器で提供していました。
1歳児のアレルギーのある男の子に、普通食と同じ子供の食器に入った米飯を配膳してしまいました。
普通食の子供の給食の配膳が終わった時に、数が合わないことに気付き、誤配していたことに気付きました。
アレルギー物質のないものを配膳していたので、もし食べたとしても大丈夫でしたが、アレルギー物質の入った給食だったら重大な事故に繋がっていました。
アレルギー除去食を子供同士で交換していた
アレルギー児は除去食を別テーブルで食べると言う対応をしている園で起こった事例です。
違うアレルギーを持っている5歳児の女児二人が、保育士が見ていない間に、お互いの苦手な物を交換して食べていました。
5歳児なので、自分たちで食べられないものをある程度は理解していたこともあり、アレルギー食は交換しておらず、重大な事故には至りませんでした。
子供たちにも食べ物を交換しないということを話し、特にアレルギー児の傍には保育者が見守る体制が必要です。
献立表のチェックミスに調理前に気付いた
保護者、保育士が献立表をダブルチェックをしていたにも関わらず、献立表に載っている「かまぼこ」にチェックミスがありました。
「かまぼこ」が食べられないことは認識していましたが、最初にチェックする保護者が間違えるわけがないという思い込みで、後のチェックが甘くなっていたためです。
調理している最中に調理員が気付いて、他の卵アレルギー児と同じように除去食を提供しました。
バイキングメニューでの誤食
アレルギーで食べられないものが少なくなってきている3歳児だったので、園でのバイキングパーティでもスープ以外はみんなと同じものをバイキング形式で食べられるようにしていました。
しかし、担任以外の保育士が間違って普通の卵入りスープを配膳し、子供も気付かず一口飲んだところで担任保育士が気付きました。
アレルギーの値も小さく、症状には出ませんでしたが、お迎えに来てもらい、病院へ受診してもらいました。
普段、しっかりとアレルギー対応を行い、声掛けやアレルギーカードなどで誤食を防ぐよう担任間で話し合っていても、パーティなどで忙しく、普段とは違う状況で監視の目が十分でない時に誤食は起こります。
アレルギー児には、アレルギー児用のバイキングを用意することで対応していくことになりました。
園庭での事例
園庭では、思わぬ事故の危険がいっぱいあります。
0歳児がヨチヨチ歩きで三輪車の子供の方へ
園庭の端でボール遊びをしていた0歳児がボールを追いかけて行った先に、5歳児が三輪車レースをしており、コースから外れて0歳児の方に向かってきました。
保育士の「危ない」の声掛けに5歳児が気付き、三輪車をストップさせたので、ぶつかることはありませんでした。
子供の視野は狭く、まだヨチヨチ歩きの0歳児や1歳児がいるときは、狭い園庭での乗り物は危険がいっぱいです。
状況に応じて、時間帯を分けて園庭を利用したり、簡易フェンスで場所を区切ったりすることで対応しました。
並んでいた幼児にブランコが当たる
入園したての3歳児が、ブランコの並ぶ場所がわからず、ブランコをしている他の幼児に近づいていき、ブランコに乗っていた幼児の足が、近づいた子供の肩にぶつかってしまいました。
並ぶ場所もあり、近くに保育者もいましたが、他の幼児の対応をしていて、気付いたときにはぶつかっていました。
入園したての子供には、一つ一つルールを教えてから園庭で遊び始めたり、異年齢児と合同で遊ぶ時間には特に気を付けるなどの対応も必要です。
保育室での事例
保育室には物がいっぱいあり、大きなけがに繋がります。
走ってこけて本棚の角で負傷
廊下から入ってすぐのところに本棚が設置してあり、角が出たままでした。
4歳児が廊下から保育室に入るときに走っていてこけてしまい、本棚で額を打って出血しました。
すぐに保育士が病院に連れて行き、3針縫うケガとなりました。
本棚へクッション素材を付けたり、角を出来るだけ保育室の壁に這わせるなど配置を変えました。
戦いごっこでブロックがのどにあたる
5歳児が戦いごっこをしていた時、気持ちが高まって持っていたブロックを本当に相手の幼児にぶつけてしまいました。
ぶつけたところが喉で危なかったですが、やわらかいブロックだったこともあり、ケガには至りませんでした。
戦いごっこ時のルールを決め、戦いに使っていいものを一緒に考えながら限定することで対応しました。
まとめ
ヒヤリハットは、例えば自分の園では大丈夫だと思っていたことも、他園ではヒヤリハットとして扱われているなど、園内の事例だけでなく、様々な園でのヒヤリハットを検討することも大切です。
ヒヤリハットを活用し、保育のリスクマネジメントにつなげていくことが大切ですね。
参考にしたこちらの資料には、様々な園から集められたヒヤリハット事例と、行った再発予防策に対して、さらに疑問を投げかけている事例もあり、とても参考になります。
是非一度、目を通してみてくださいね。
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